過去の幽霊

にとらわれている人の話。

育った家族から受けた傷で、自分の自己イメージがはっきりとわからずに大人になってしまったその人は、最近まで自分が女だと思わなかったという。これはトランスジェンダーとかではなく，彼女は女で女の格好をして、男の人と付き合っているのだけど、自分に対して性的に興味を持って近づいてくる人全般に恐怖を覚えるといっていた。

付き合っている相手に関しては、問題はないらしいが、性的な関係になるのが怖くて逆に後先省みずとりあえず試してみる、ということになるのがパターンならしい。性関係を持つと大体相手の性に関するものの見方がはっきりしてくるので、それに対して嫌悪感を持つ場合はその時点で終了。そうでない場合は関係持続となる。

最近彼女は、自分の付き合っている男性と近くなれば近くなるほど相手に対する要求も怒りも憎しみすらさえ高まっていくことに気づいた。それはすべて彼女の父親に関する感情が近い異性に対して投影されるからであることもはっきりしてきた。父親にきづつけられてきたことに対する怒り、復讐心、懲罰をしなければいけないという義務感、と同時に自分の愛すべき相手に対して懲罰を加えているという罪悪感が彼女を苦しめていた。それは、自分に対する自己懲罰的傾向にまで発展して、すべての歯車が狂って行く、という経験を何度か繰り返していくうちに、何らかの援助が必要だということがはっきりしてきたのだ。

最初のセラピーにつながるきっかけは「自分の大切な人を壊してしまう不安」から始まっていた。
その直感は正しかった。でも自分ひとりで変えられるものではなかった。最初のセラピーから6年以上が立って、やっと自分が回復の骨組みが見えてきた、と彼女は言う。

と同時に、自分の付き合っている相手が父親とは違う人間なんだと気づくことがどれほど彼女を楽にするのか、初めてわかったそうだ。今まで言葉で聞いていても、母親から聞いて育った「男はみな同じ」という言葉が耳の中で鳴り響くだけだったから。

私はもう、自分の復讐心や怒りや義務感や罪悪感や自己懲罰にさいなまれなくてもいいんだ、とやっと思えた。